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それに加えて、機械相手にガチャンと買うことの非人間性があると、わたしには思えるのです。たとえば、缶入り飲料を見てみましょう。飲み物は、人の渇きをいやすもの。でも、どんなにのどが渇いていようと110円なければ、1円足りなくても、一滴も手に入りません。それにすっかり慣れていますから、まさか、「そこをなんとか。60円で半分だけ飲ませてください」なんて機械相手に交渉しようとも思いません。
でも、もし、相手が自販機ではなく、カルカッタでチャイを売るおじさんだったり、カリフォルニアでレモネードを売る子供たちだったりしたら、きっと頼み込んで、こちらの持ち合わせに応じた分量だけ飲ませてもらえるでしょう。少なくとも「1円足りないから絶対ダメ」なんて非人間的な拒否には出くわさないでしょう。
この金銭的“厳しさ”は、お気づきのように、自動販売機に限ったことではありません。スーパーでの買い物にしても同じで、うっかり財布を忘れて行けば、あきらめて戻るしかありません。これまた、常識でしょ、と思われがちですが、昔のお店ではそうではありませんでした。顔見知りだと、「いいわよ、品物持ってってよ。お代はこんどでけっこう」なんてこともありましたし、1円足りなかったりしても、たいていは負けてくれたものです。でも、スーパーやコンビニのレジでは、いくらお姉さんと顔見知りでも、「1円、まけといて!」という勇気は出ませんので、必要なものでもあっさり棚にもどす条件反射が身についてしまっています。
どうも世のなか、近代的になればなるほど、お金を物差しとして社会の人間関係がキッチリ枠づけされてくるようです。クレジットカードにしろ、キャッシュカードにしろ、お金に不自由の

 

 

 

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